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貸切ブルトレがナムトク線を走る(特別企画 アジアの鉄道旅行記①)

貸切ブルトレがナムトク線を走る 2018年某日。当サイトでとてもお世話になっている方からメールが来た。『今度ナムトク線の臨時列車に貸切車両を連結して走らせるので参加しませんか?』。ものすごい企画である。こんなチャンスは滅多にないのでおんぶに抱っこで自分も参加させて頂くことになった。

今回貸し切った車両は元ブルトレ2両。借りたかったのは改造された展望車だけだったが電源がないということで食堂車も連結し2両となった。週末にバンコク駅からナムトック駅まで運行されている臨時列車909レ/910レに増結する形で、この日はタイ人が別の車両も貸し切っていたのでとても長い編成となった。

2018年11月24日(土)
6:00
集合時間。まだ夜が明けきらぬフアランポーン駅に乗車予定の909列車はすでに4番ホームに停まっていた。自分は駅から歩いて15分ほどの格安ゲストハウスからちんたら歩いて来たので6:05くらいに到着。参加者は20名ほどですでに記念撮影が始まっていた。隣の5番ホームには臨時のヒマワリ列車も停まっていた(下の写真には写っていない)。この臨時列車はヒマワリが咲く時期のみの運行である。

6:30
ほぼ定刻に発車(たぶん)。フアランポーン駅をゆっくり出発。大きなヤードを抜けると各地からバンコクに向かう夜行寝台とすれ違う。まもなくするとチットラダー宮殿駅。前国王ラマ9世がタイ各地に列車で向かっていた頃にはよく使われていたが国王が崩御され現在は利用する予定がなくなった。また目の前にあったチットラダー宮殿のそびえ立つ壁も撤去され、中の様子が見えるようになっていた。延伸するエアポートリンクはこの宮殿に配慮しこの駅付近では地下になる予定だったが計画が変更になりそうだ。

30分ほどでバンスー駅に到着した。以前はバンスー1駅(北方面)と2駅(南方面)に別れていたが現在は1駅が廃止となり2駅のみが使われていた。また新バンコク駅の建設も着々と遅れていた…もとい進んでいた。あと10年もすれば間違いなくここがバンコクの新ターミナルになる。

ゆっくりと駅を出発した列車はそのまま南線方面の線路に分岐した。列車はバンコク都市鉄道パープルラインとクロスしチャオプラヤー川を越えると徐々にスピードを上げていった。

7:40
ナコンパトム駅到着。ナコンパトムでは40分ほど停車する。朝飯を買ったり近くにある大きな仏塔を見学したりできる。この仏塔はプラパトムチェディと呼ばれている。

乗ってきた列車の前になぜか列車が停まっていた。これはフアヒン方面の臨時列車のようだ。この列車と909レは通常ディーゼルカーで運行されていて、ここナコンパトム駅で909レと切り離している(らしい)。今回は貸切客車を連結するために客車タイプで運行しているためフアヒン方面の客は前の列車に乗り変えるようだ。40分も停まるのだから普通に客車を切り離せばいいんじゃね?とも思ったがタイ国鉄なりの理由があるようだ。

8:20
少し遅れてナコンパトム駅を発車。ここからカンチャナブリ駅までは何もない。鬱蒼としたジャングルというほどでもなく広大な田園風景が広がるというわけでもない。寝るのが最適とばかりに空いている寝台を借りて寝ることにした。

久しぶりの寝台列車はとても快適だった。さてここからは何もないと言ったのだけど実はメインイベントがある。現在南線のナコンパトムからフアヒンまでは複線化の計画があり工事が始まったばかり。その工事用に日本から仕入れたディーゼル機関車DD51がノーンプラドゥック駅でメンテナンス中との情報を頂いた。参加者の方がここによく来て乗せてもらっているとのことで、わりと頻繁にTwitterにアップされている。是非ご覧あれ(検索して探してね)。

写真は帰りに撮影したもの。実は同じような光景をマレーシアのケダ線の複線電化工事でも見たことがある。海外に移籍したDD51は工事用に最適なのかも知れない。

9:30
カンチャナブリ駅に到着。停車はするがすぐに発車するので注意が必要。駅にはぼったくり用…失礼、観光客用の普通の客車が留置されていた。

9:37頃
戦場にかける橋で有名なサパン・クウェー・ヤーイ駅に到着。実際には橋の手前に停車する。ここではおよそ25分間停車し乗ってきたお客さんがぞろぞろと降りて橋まで歩いて行く。橋から下をのぞくと水上レストランもある。列車が通過するのを眺めながらの食事も乙である。思い思いに撮影していたお客さんが徐々に列車に戻り始めた。まもなく出発だ。10:00の発車だがなかなか出発しなかった。それではサパン・クウェー・ヤーイ駅を発車し戦場にかける橋を渡る909レからの映像をどうぞ(筆者撮影)。

11:00頃
戦場にかける橋を出て1時間。サパン・タムクラセー駅手前にある通称『アルヒル桟道橋』にさしかかった。川と岩肌の間を縫うように線路が掛けられ、突貫工事のため岩肌は凸凹になっているのがよくわかる。また川の対岸には水上コテージも見える。このコテージはタイ国鉄好きには有名で、わざわざここに宿泊してアルヒル橋を走る列車の写真を撮る人もいる。ここからはアルヒル桟道橋を走行する909列車からの映像をどうぞ(筆者撮影)。

11:30頃
ほぼ定刻にナムトック駅に到着(したよね?)。この駅は登り坂になっているため乗客を降ろした列車は1度引き上げて脇にある留置線に入った。ノーンプラドゥック駅を朝イチで出発した列車もここの留置線で休んでいた。夕方のノーンプラドゥック行きになるようだ。さてここから先の予定を特に考えていなかった自分は、タイ語が堪能な参加者がソンテウをチャーターしアルヒル桟道橋の対岸にある水上コテージまで行くというのでまたまたおんぶに抱っこで連れて行ってもらえることになった。1人あたり200Bahtだったのでかなり格安だった。そして水上コテージから朝乗ってきた臨時列車をカメラに収めた後、カンチャナブリ駅でその列車に追いつき乗車する計画だ。Google Mapさんの計算だと間に合うはずだ。コテージに行く前に、1つ先のナムトックサイヨークノーイ駅までソンテウで行くことになった。自分は風が気持ちいいのでソンテウの後ろに立つことにした。

一見すると危ないヤンキーのハコ乗りに見えるがタイではよくある光景だ。ソンテウで降ろされたのは323号線沿いのバス停だった。ナムトックサイヨークノーイ駅はこのバス停から少し登った所にある。階段を上がるとすぐに蒸気機関車が見えた。

日本製のC56 4(702)だ。括弧内の番号はタイ国鉄の車両番号で702号機という意味。ビルマ方面を向いたままそこに鎮座していた。その先にはサイヨークノーイ滝がある。ちなみにナムトックの意味は滝だ。ナームが『水』、トックは『落ちる』の意味で合わせると滝になる。

ここで10分ほど休憩。先ほどのバス停に戻ってみるとソンテウのお兄ちゃんがすでに別のソンテウで迎えに来ていた。乗り込むとすぐに出発だ。

13:10頃
かっ飛ばすソンテウが急に速度を緩めて停車した。踏切だ。なんとトンブリ―行きの258列車と遭遇した。そのときの映像がこちら↓。

肉眼ではかなりのスピードで疾走する列車に見えたが100km以上でぶっ飛ばすソンテウの方がもしかしたら早いと思いGoogle mapさんに願いを込めて調べてみた。タムクラセーまでならなんと余裕で間に合う計算。だがそれは誤算だった。ソンテウのお兄ちゃんが道を間違えるという痛いオチ。橋を渡らないでタムクラセー駅に向かっていた。たまたまGoogle mapで道を追いかけていた自分が気がつき運ちゃんに猛アピール。タイ語が完璧な方が場所を再度伝えてくれてすぐにUターン。橋を越え対岸のホテルに向かった。258レに間に合うかどうかの状況になった。

13:40頃
水上コテージのあるホテルに着いたときに汽笛が聞こえた。咄嗟に野生の勘で川の方に走るとタムクラセー駅を出発する258列車が見えた。カメラを構え撮影した。

次の列車まで1時間以上あるのでここのホテルで昼食を頂くことになった。参加したメンバーはカオパットやヤムウンセンなど食べていた。

15:00頃
さてここから本番。我々が乗ってきた909レの帰路910レだ。少し曇っていた天気が汽笛が聞こえるころにはまた晴れ間が出ていた。列車が来た。一斉にシャッター音が鳴り響く。

今回は10-20mmという超広角レンズを持って行ったのでとてもワイドな絵を撮ることができた。いろいろな人に感謝。

15:20頃
さて急いでソンテウに乗り込む。ここからは競争だ。カンチャナブリ駅までは約50km。所要時間は50分。少し渋滞してもギリギリ間に合う計算だ。あとは列車が遅れることを祈るだけ。車内では緊迫した状況だった。荷物を列車に置いて来ちゃったから間に合わないとかありえない。Google Mapを眺めつつ焦りながら神に祈った。神様に祈るのは宝くじとこうゆうときだけ。カンチャナブリ駅まであと2kmのときに神が微笑んだ。910レに乗車している方からTwitterで入電。まだ戦場にかける橋まで来ていないとのこと。我々ソンテウ組はすでにその地点に来ていたので勝利を確信した。

16:25頃
カンチャナブリ駅到着。後から聞いた話しだと列車が15分ほど途中駅で停車していたようだ。そしてそして後から分かったことだがカンチャナブリ駅は16:53発。まじですかタイ国鉄さん!時刻表がはっきりしないので不安がいっぱいだったが実際には余裕で間に合っていたようだ。何が正しいかなんて誰にも分からない。まさにアメージングタイランド。

さて対向列車の259レがカンチャナブリ駅にすべり込んだ。その数分後910レがやってきた。すぐに発車すると聞いていたがぜんぜん発車しない。結局カンチャナブリ駅をほぼ定刻の16:55に出発した。すでに日が傾き夕陽が車内に差し込み始めた。行きは最後尾だったが帰りは機関車の後ろ。これもまた乙である。

列車は田園風景を猛スピードで駆け抜けて行く。世界の車窓からのテーマソングが似合う疾走っぷりだった。

18:10頃
ナコンパトム駅に到着。夕暮れが列車を照らす。

到着後すぐに出発しバンコクを目指す。あたりが暗くなりまったりとした時間が流れていく。タリンチャン駅を通りすぎあっと言う間にバンスー駅。終点まであと少し。

19:40頃
無事フアランポーン駅到着。ハラハラドキドキした素敵な1日だった。そして楽しい1日だった。このツアーを企画してくれた方、現地でソンテウをチャーターしてくれた方、DD51の情報をくれた方、そして参加されたすべての方に感謝!コップンカップ。

さてタイ国鉄時刻表の管理人としては最後に909レ/910レの時刻表を載せたいところ。しかし正確な時刻が分からない。ここに貼った時刻表は概略であり参考程度に留めて欲しい。通過(レ)の表示のある駅でも普通に停車するので注意が必要。

旅行データ
旅行日:2018年11月24日(土)
費用:約13,000円(貸切のため高くなった)
機材:Nikon D5100
   Sigma 10-20mm F3.5 EX DC HSM
   Nikon AF-S DX Micro NIKKOR 40mm f/2.8G
記事作成日:2019年3月10日

▼ナムトク線 第2次世界大戦中に日本軍がビルマ(現ミャンマー)への補給路として建設した、いわゆる泰緬鉄道の一部が現在のナムトク線である。正式名称は南線ナムトク支線だが当サイトではナムトク線と呼んでいる。またナムトック線と書くこともある。運行本数は1日3往復。外国人料金の設定がありどんなに短い距離でも外国人は100Bahtなので注意。

▼909レ/910レ バンコク駅からナムトック駅まで運行されている列車。週末のみの運行で、行きはナコンパトムや戦場にかける橋などでは長時間停車する。終点のナムトック駅では3時間停車するので周辺の観光にも最適である。ディーゼルカーで運行するときはナムトックからさらに1つ先のナムトックサイヨークノーイ駅まで行く。時刻表については下部に記載。

▼バンスー駅 北線と南線が分岐する駅で地下鉄MRTの駅もある。周囲には何もなく閑散としているがすべての列車が停車する。また新バンコク駅を目下建設中で2階が在来線、3階が高速鉄道(新幹線)のホームになる予定。貨物駅でもあったため、チャトチャック公園方面には大きなヤードがいまだに残っているが新駅建設のため貨物の運用は別の駅に移されている模様。バンスー駅北側には機関車の車庫と客車の留置線があるため列車の往来はわりとある。

▼プラパトムチェディ(大仏塔) ナコンパトム駅からも見える大きな仏塔で世界一高く120mほどある。

▼DD51 1137/1142 タイのASSOCIATED ENGINEERING社(ゼネコン?)に譲渡された元JR北海道の機関車である。電気式が主流のタイではかなり珍しい液体式ディーゼル機関車となった。南線ナコンパトム~フアヒン間を複線化する計画が始動し、工場車両として輸入された。2018年12月現在はノーンプラドゥックの車庫に留置してある。なお外されていたナンバープレートはタイで再製され同じナンバーが掲げられている。

▼戦場にかける橋 正確にはクウェー川鉄橋という。第2次世界大戦中に日本軍によって作られた泰緬鉄道の橋であり、現在の鉄橋は戦後補償として日本の手で修復されたものである。また映画『戦場にかける橋』の舞台として有名である。

▼タムクラセー桟道橋(アルヒル桟道橋) タム・クラセー桟道橋が現在の正確な呼び方のようだ。泰緬鉄道建設で難所となったところで、大きな岩肌を爆破したり削ったりしてクウェーノーイ川との間に作られた。列車は常に低速で走行する。またサパン・タムクラセー駅から線路上を歩いてカンチャナブリ方面に行くとクラセー洞窟があり、中には仏像が安置されている。

▼ナムトックサイヨークノーイ駅 タイ国鉄公式のナムトク線の終着駅はナムトク駅だが実際にはその先のナムトックサイヨークノーイ駅(正確には停車場)まで線路は続いている。定期列車の運行はなく時刻表にもこの駅の名前はない。ただし週末の909レ/910レがディーゼルカーで運行されるときだけ乗り入れているイレギュラーな駅である。駅先端から少し先にC56 4(702)が静態保存されていて乗ることもできる。

▼タイに渡ったC56 フアランポーン駅構内のディーゼルカーの留置線近くに静態保存している蒸気機関車はC56 16(714)だ。タイの各地にC56が保存されてあり、ナムトックサイヨークノーイ駅ではC56 4(702)やサパン・クウェー・ヤーイ駅近くの公園にC56 23(719)も静態保存されている。またトンブリ―の工場で動態保存されている車両もある。【注意】括弧内の番号はタイ国鉄における車両番号 写真はフアランポーン駅の714号機(2012年2月撮影)

▼水上コテージ アルヒル桟道橋の対岸にある『Banrimkwae Paerimnam Resort(バンリムクウェーパエリムナムリゾート)』というホテル。眺めはとても素晴らしい。ここは宿泊するとかなり高いので川沿いのレストランで食事を頂きながら列車の通過を楽しむというのが最適である。なおサパン・タムクラセー駅から徒歩では行けないので注意が必要。